お願いします~そんなこと言わせたくない
施設に入った当初、母は車椅子に座って
机の上でご飯を食べた。
食後は順番に歯磨きして部屋に入る。
その時間帯はとてもいそがしく
職員は猫の手も借りたいほどに見えた。
母の食事が遅かったのかまだテーブルに座っていた。
「お願いします!」と何度も母は大きな声で言った。
待ちくたびれて早く部屋に行きたかったのだろう。
そんなことを言わなければいけない
母の後ろ姿を見て
どうすればよいのかわからなくなった。
そんなこと言わせたくない。
やはり家につれて帰ったほうが…。
しかし、母の体と自分の体調も考えると
連れ帰っても十分に世話ができない。
自宅でヘルパーを頼むぐらいなら
病院も横にある施設で
面倒を見てもらうほうが安心だ…。
やりきれない気持が抑えられず
帰りの車の中でひとりハンドルをたたきながら
いつものように意味のない言葉を叫んでいた。